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 歌う。歌う。歌う。彼女のために。たった一人の大切な人のために。 「みぃちゃん」 「なぁに?」 「みぃちゃんはずっと一緒にいてくれるんだよね?」 「うん。約束したじゃない」  布団の中、優しく笑む彼女。強く握りあった手。大丈夫。私たちはずっと一緒。誰にも邪魔させない。私は彼女を守る。 「ね、歌って?」 「うん。いいよ」  私は歌う。  みぃちゃんが眠りについたのを確認して、布団を抜け出す。愛しさを込めてそっと髪を撫で、夜の山へと入る。  ひんやりと寒く、耳が痛いほど静かだった。  生き物の声も、揺れる葉の音も何も聞こえない。踏みしめる土と、自分の心臓の音だけがやけに響く。  みぃちゃんは不安定になっている。私が傍にいないと、取り乱すこともある。だから本当はあまり離れたくない。確認だけして、急いで戻らないと。  みぃちゃんと遊んだ秘密の場所。その木の根元。掘り返された形跡はない。でも、念のため土を掘り返す。  靴に鞄に赤黒く変色し破れた服。そうして、 「………え?」  やっぱり、ある。なら、先輩が言っていたのはこれじゃなかったんだろうか。 「何、してるの?」  声をかけられ、ギクリと振り返る。顔色を変えた母がいた。 「 ねぇ、そこにあるのは何?こんな所で何してるの?」  ずかずかと近寄ってきた。  響く音。遅れてやってきた痛みに、頬を叩かれたのだと知った。 「最近夜中にこそこそしてると思えばっ、やっぱりお前だったのかっ!」  何度も何度も強く打たれる。その手が不意に止まった。 「落ち着いてくださいっ」  いつのまにか現れた先輩が、母の腕をつかんでいた。 「ごめん。キコちゃん。石の場所が知りたくてかまをかけた。そしたらこの人が」 「………母です」 「お前なんか、娘じゃない」  先輩が一歩前に出て、手を差し出す。私はその石を握りしめ、背後に隠す。 「さぁ、その石を渡すんだ。もうこんな事は終わりに…あれ?」  先輩の様子が変わった。戸惑いを浮かべている。 「キコちゃん。何で君がそれを持っていられるんだ?触れないはずじゃ」  あ。しまった。 「何で………父の手記では確かに、妹の方だったと」  先輩の台詞に、母が叫び声をあげた。 「妹は、希子じゃなくて望子の方よっ!」
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