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3
歌う。歌う。歌う。彼女のために。たった一人の大切な人のために。
「みぃちゃん」
「なぁに?」
「みぃちゃんはずっと一緒にいてくれるんだよね?」
「うん。約束したじゃない」
布団の中、優しく笑む彼女。強く握りあった手。大丈夫。私たちはずっと一緒。誰にも邪魔させない。私は彼女を守る。
「ね、歌って?」
「うん。いいよ」
私は歌う。
みぃちゃんが眠りについたのを確認して、布団を抜け出す。愛しさを込めてそっと髪を撫で、夜の山へと入る。
ひんやりと寒く、耳が痛いほど静かだった。
生き物の声も、揺れる葉の音も何も聞こえない。踏みしめる土と、自分の心臓の音だけがやけに響く。
みぃちゃんは不安定になっている。私が傍にいないと、取り乱すこともある。だから本当はあまり離れたくない。確認だけして、急いで戻らないと。
みぃちゃんと遊んだ秘密の場所。その木の根元。掘り返された形跡はない。でも、念のため土を掘り返す。
靴に鞄に赤黒く変色し破れた服。そうして、
「………え?」
やっぱり、ある。なら、先輩が言っていたのはこれじゃなかったんだろうか。
「何、してるの?」
声をかけられ、ギクリと振り返る。顔色を変えた母がいた。
「 ねぇ、そこにあるのは何?こんな所で何してるの?」
ずかずかと近寄ってきた。
響く音。遅れてやってきた痛みに、頬を叩かれたのだと知った。
「最近夜中にこそこそしてると思えばっ、やっぱりお前だったのかっ!」
何度も何度も強く打たれる。その手が不意に止まった。
「落ち着いてくださいっ」
いつのまにか現れた先輩が、母の腕をつかんでいた。
「ごめん。キコちゃん。石の場所が知りたくてかまをかけた。そしたらこの人が」
「………母です」
「お前なんか、娘じゃない」
先輩が一歩前に出て、手を差し出す。私はその石を握りしめ、背後に隠す。
「さぁ、その石を渡すんだ。もうこんな事は終わりに…あれ?」
先輩の様子が変わった。戸惑いを浮かべている。
「キコちゃん。何で君がそれを持っていられるんだ?触れないはずじゃ」
あ。しまった。
「何で………父の手記では確かに、妹の方だったと」
先輩の台詞に、母が叫び声をあげた。
「妹は、希子じゃなくて望子の方よっ!」
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