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 話し声が聞こえる。ボソボソとしていて、内容まではわからない。逃げようとして、その後の記憶がない。  襖が開く。  先輩が悲しそうに微笑んでいた。 「みぃちゃんは」 「あの後、君の家に行ったらすでにいなかった。屋内はひどく荒らされていたよ」  きっと、心配している。早く行かなくちゃと思うのに、身体は動かない。  布団の横に腰を下ろした先輩は、ゆっくりと首を振る。 「君の身体はもうボロボロだ。よく今まで平気なフリができてたね」  だって、みぃちゃんが心配する。みぃちゃんのためなら、なんだって我慢できる。 「キコちゃんが、お姉さんだったんだね」  みぃちゃんはしっかりしている。間違えられることが多く、訂正するのも面倒で放置するようになっていた。でも、希子と望子。名前を見ればどちらが姉かなんて、一目瞭然だ。 「ここは僕がお世話になっている家。お姉さん…妹さんはおそらく君を探している。今は結界をはって、見つからないようにしているけど」  じっと、先輩を見上げる。 「ごめんね。あの石はどうしても必要だから、乱暴な事をした」 「あの、石は」 「元々、あれを封じていた石だよ。穢れをうけて封印が弱まった隙に、逃げられて。父はずっとあれを探していたんだ」  やめて。あれだなんて言わないで。あの子は私の大切な妹なのに。 「石はもう浄化してある。後はあれを封印するだけ。父は、失敗してしまったけど」 「やめ、て。あの子には、手を、出さないで」  先輩の表情に、悲しみが増す。 「ごめん。それはできない」  どうして。  私たちはただ、お互いだけを必要としていたのに。ただ一緒にいられればそれでよかったのに。あの子を守りたくて、守るために全部隠した。  夜中に抜け出すのをつけて、残された靴や服の切れ端を埋めた。腕は見つかりそうで運べなかったけど、握っていた石は嫌な予感がして。  さりげなく探りを入れるつもりで、気づかれてしまったのは失敗だったけれど。 「でも、実はよかったって、思ちゃったんだ」  無理に明るく、先輩が笑う。 「キコちゃんがそうじゃなくて」   先輩の手がのびてきて、額に触れる。急激な睡魔がやって来た。 「大丈夫。次に起きた時には全部終わっているから。だから今は、ゆっくりおやすみ」  なんにも、大丈夫なんかじゃない。  私の意識はそこで途切れた。  歌が聞こえる。  彼女の歌が。  悲しい、大切な歌声。  涙が、こぼれた。
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