思い出レストラン1

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その横でニコニコと頷いていた老婆の輪郭がぼやけた気がする。 見間違いで無い事はすぐに分かった。 春田は、内心溜息を付く。 老婆はずるりと黒いモヤの様なものに溶けていく。 こういうものを見るのはこれが初めて、という訳では無い。 春田にとってはよくあることだし、この場所では日常茶飯事だ。 けれど何度経験しても慣れないものは慣れない。 一瞬ギクリと固まってしまった春田を不思議そうに少女が見つめている。 「じゃあ、そろそろおじちゃんいかないと。」 「うん、またね!」 少女が胸の前で手を振ったのに返しながら、慌てて部屋を出た。 こういう時には忘れてしまうのが一番だと春田は良く知っていた。 ◆ 春田が裏口へ向かう途中、目の前に葬儀屋が丁度いた。 先ほどまでとは違い仕事着に着替えている。喪服に近い恰好であるがジャケットにグレーの飾りが付いているものだ。髪の毛も後ろに撫でつけている。 「大丈夫ですか?顔色が悪い様ですが」 葬儀屋は仕事先だと敬語以外使う事は無い。 「いつもの事だ気にするな」 「事務室で少し休んでいきますか?」 どうせそんなんじゃ戻っても仕事にならないだろうと目が言っていた。 葬儀屋の後ろに先程の老婆が見えて思わず眉間を指で触れた。 これを連れて帰りたくは無かった。 仕方が無く頷くと事務室に案内された。
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