獅子は子リスを手放せない(ドゥーガルド)

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 ズキズキ痛む。深い部分が痛んでいる。言いようのない不安が溢れて、苦しさに胸が詰まる。泣きそうな目で見上げると、ボリスは手を離して訓練用の森を指さした。 「さっさと迎えに行ってこい! これ以上あの子を泣かせたら承知しない!」 「!」  立ち上がり、ドゥーガルドは猛然と走り出した。その目に映っているのは訓練用の森だけ。こんな夜中に誰もいるはずの無い森に気配を向ける。感覚を研ぎ澄ませれば、微かな声が聞こえる気がした。  気のせいかもしれない。それでも自分を信じて森の中へと入っていった。音が、近づいて来ている気がした。気配が分かる気がした。  やがてその先から「いや…」というか細い声が聞こえた気がした。  一本の木の根元。そこに群がるように数人が跨がっている。まだ衣服に乱れた様子はない。でも、組み敷かれている体は身を捩っている。 「誘われたんだからいいんだろ、ディーン」 「失恋を慰めてやろうってんだから、今更抵抗するなよ」  声が聞こえる。胸が痛む。でも、まずは…。  ドゥーガルドはディーンに跨がっている隊員の首根っこを掴むと後ろへと放り投げた。その突然の事に他の奴らは固まっている。そいつら全部を引き剥がすように放り投げると、涙にグチャグチャになったディーンが頼りない目を向けていた。 「ディーン!」     
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