母とご飯の思い出

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朝食を摂っていると時々、箸が止まることがある。 妻はどうしたのかと聞いてくるが、私は何でもないといつも答えるのだが 私には今も忘れられない思い出がある。  私が中学生の時に母親が亡くなった。 母親は喉頭癌という喉の癌で、四十二歳の若さの早すぎる死だった。 十一月の寒い朝、父と妹と朝食を食べている時に病院から電話が掛かって来た。 母親の危篤の連絡を受け三人で病院に向かった。 しかし母の意識はもうなく、半開きの目で天井を見ていた。 父と妹は母の手を取り、母の名を呼んでいたが、私は朝食の途中で食べ残したご飯が 固くなっていく様子をずっと考えていた。 もっと母にああしたかったとか、こうしたかったとかよりもご飯が固まっていくさまと 死にゆく母とがシンクロしてしまい何ともいえない気持ちになっていた。 母が亡くなった後、病院から帰ると、すでに家の中は近所の人に片付けられていて、 食べ残しのご飯もなくなっていた。 その時、あぁ母はもういないんだなと思え、少しだけ涙した。
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