「先輩」

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ーー快晴の空はとても遠くに見えた。つないだ両手の先の手をぎゅっとつかみ、大きく宙返り。急に空は暗転し、片方の手が離れバランスを崩して転んでしまったーー 何かの物音で目を覚ます。すっかりぬるくなったタオルを取って体を起こすと、最悪な気分が襲ってきた。ノックもせずに開いたドアの先には気持ち悪い先輩の顔があったから。 「先輩! ちょっとなんで私の部屋にいるんですか!?」 熱があることなんてすっかり忘れて、大声が出てしまった。先輩はいつものようにビクッと固まり、悪びれた顔をしながらも私に近づいてくる。 「そろそろタオルぬるくなってしまったかなと――」 「そうじゃなくて! ここ、私の家、私の部屋ですよ! わかってます!?」 「ああ。大丈夫だ。ちゃんと伊藤さんから許可を得ている。一実が体調崩すなんて珍しいから、仕事に行っている間看病お願いしますって。だから、タオルとあと、おかゆ作ってくれていたみたいだから――」 投げた枕が先輩の顔に当たって、その先の言葉を止めた。 「いらない! もう帰って!」 ずれ落ちた枕は、床に転がり、堀の深い先輩の顔がまた現れる。私の嫌いな、気持ち悪いその顔。 「一人で大丈夫ですから!」 男のくせにまつ毛は無駄に多くて。 「先輩だって、私に嫌われてることわかってますよね!」 大きめの瞳は哀しそうに瞬く。 「先輩がいる方が!」 高い鼻筋にぎゅっと引き締めた唇。 「私にとって迷惑なんです!!」 それら全部が全部、大嫌いなんだ。 身体が熱い、息が荒い。それは熱っぽさのせいで。絶対に先輩のせいなんかじゃない。 「……わかった。帰る。タオルはここに置いておくから。食べられるならしっかり食べて、しっかり寝ろよ。何かあれば連絡――」 「しません!」 それで先輩は帰っていった。玄関の扉が静かに閉められる。風鈴が鳴り、次第に音が小さくなっていく。誰もいない家は急速にその温度を冷ましていくが、私の身体は熱いままだった。 仕方なくベッドから降りると、先輩が持ってきたタオルを拾って額に乗せた。 「冷たすぎるよ」
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