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それからしばらくして、窓から入り込む光が完全になくなった頃、お母さんは帰ってきた。
「お母さん、先輩のこと知ってたんだ」
部屋を開けようとしたお母さんに向かってそう言葉を投げつける。
「……知ってたわ。一実と同じ高校だってこと」
ちょっと間があって、だけどいつもと同じ言い方に無性に腹が立つ。
「知ってて、なんで家に入れたのよ!」
「それは、あなたのことが心配でーー」
「先輩は、あいつの方のいとこなんだよ! 顔も似てるし! 絶対に近づかないようにしてたのに! なんで!? どうして!?」
身体中が熱いのに震えていた。ドアの先から先細い声で「ごめんね」とだけ聞こえて、足音が去っていく。違うのに、そうじゃないのに、私は。
ピコンッと通知音が鳴る。ディスプレイには先輩の名前が光っていた。
**********
熱っぽい額には早朝のまだ涼しい道場は心地よかった。先輩はもはや道着に着替えて、木板の上で正座をしている。私が来たのに気づいているだろうに、目を閉じたまま微動だにしない。
私も声をかけることはせずに女子控室へ入り、道着に着替える。弓を取り出す前にぼんやりとした頭を集中させるために、2、3度顔を叩いた。この勝負、絶対に負けられない。
昨日、先輩は懲りずにメッセージを送ってきた。それに対して、私は一つの提案をした。明日の朝、射詰競射で私が勝ったらもう二度と私に近寄らないで、と。
控室の引き戸を開け、先輩の横へ座る。同時に礼をして、射位へと進む。先輩への怒りを込めて第一射を放った。
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