「先輩」

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気持ちのいい音とともに、矢は的の中心を射た。先輩も同様に。当たり前だ。先輩は十射九中の腕前。だけど、私だって。 二射目。先輩がここにいることを、自分がここに来たことへの怒りを発する。先輩は涼しい顔で空気を吸うかの如く的中。 三射目。確かに子どものときは、こうして隣に並んでよく遊んでいた。世界は変わらないと思っていたあのとき。だけど、どうしたって勝手に変わってしまうんだ。 なのに、この顔は、あいつに似ているこの顔は変わることなくて。先輩とも似ているなんて揶揄されて。 なんで邪魔するの? なんで関わろうとするの? せっかく、せっかく、二人だけの生活に慣れてきたのに! やっとバイトができるようになって、お母さんの苦労も減らして二人だけでずっと生きていこうって決めたのに!! なんで許せるの? 絶対許せるわけなんてない。 あいつのこと! 「あっーー」 力みすぎたその矢は大きく的を逸れて地面へと落ちた。その横で先輩の放った矢が的確に的を射る。 緩やかな風が頬を撫でていく。突然、手も足も力が入らなくなり、体が傾く。 なんで。私、こんなに頑張ってるのにーー。 力強い腕が私の体をふわりと支えた。 「大丈夫か?」 先輩の大きな瞳が私を心配そうに見つめていた。 「す、すみません」 「なんだ! すごい熱いじゃないか! 本当に風邪は治ったのか!」 「あ、あの……」 あれ? こんなに顔が近いのに嫌悪感が沸かない。 その理由が思いつく前に先輩は私の体を慌ただしく持ち上げて背中に回した。 おんぶされているのに気がついたのは道場を出たあとで。登校中の生徒が大勢いるなか、先輩は気にする風もなく走って行く。突き刺さる視線が痛くて恥ずかしくて。 「せ、先輩! 下ろしてください」 先輩はその言葉に答えることなく、私の体を支える腕にぎゅっと強く力を入れた。
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