ゆらりてまねき

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「ええと、 分かった」 「ちゃんと直してやるからな。 そしたら、 雨漏りもしなくなるぞ。 良かったな」 私は戸惑った。 雨漏りを直してしまったら、 圭介に会えなくなる。 視界の隅にじわじわと、 白い手が染み出し始めた。 晴れた日に見えるのは初めてだった。 手招きし、 こちらにおいでと言っている。 行けば、 圭介を私のものにしてくれる? いいよと、 はっきり返事が聞こえた。 それから何日も考え、 私は圭介に電話をかけた。 「おう、 千夏。 雨漏りか?」 もう何年も、 雨漏りの相談以外で私が圭介に電話をかけたことはなかった。 「ううん、 違うのよ。 あのね。 一緒に、 ご飯食べに行かない?」 圭介が黙り込む。 とても恐ろしい沈黙で、 私は固く目を閉じる。 やがて、 くすっと笑う気配があった。 「いいよ。 いつでも」 それから、 あの手は見えなくなった。
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