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雨の日は、
手が見える。
古くて薄暗い家の中で、
腕のない手だけが浮かんでひらひらと手招きしているのだ。
見え始めてもう二年くらい経つだろうか。
「ああ、
また」
私が呻くと、
雨漏りの具合を確かめに来ていた圭介が振り返って目をすがめた。
「どうした千夏。
また手招きか?」
「うん。
害はないんだけど」
「やっぱり俺には、
見えないけどな」
「叔母も昔見えたって。
オンボロの古い家だし、
こういうこともあるよね」
「手入れすればオンボロじゃないよ。
文化財としても価値のある家だし、
修理も補助金の対象になるんじゃないか」
私の家は、
旧家だ。
この頃はあちこちで雨漏りがするので、
代々大工をしている幼馴染の圭介の家に頼りっぱなしだった。
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