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みっともないって、笑ってください。
すがる俺を、たしなめてください。
そう願いながら、息苦しいほど欲しくてたまらない相手を抱き寄せる。食べられるか、それとも喰われるか。互いの眼差しが、算段しあうなかで。
「好きです、好きです。好きなんです」
「……どうしたんだよ、冗談だろ?お前今日は、かなり飲んでたし、ペースが」
屁理屈なんか、言わないでください。
そんな想いを込めながら、部屋まで送った先輩の唇に、噛むようなキスをする。勢いあまって、冷たく固い、床に押し倒す。
触れたかった。
なで回して、痕跡をつけたくて、自分のものだって、見せつけたかった。
でも、反対のことを俺はいっぽうで望んでいる。
飲みすぎだって、笑い飛ばしてほしい。
いい加減にしろって、怒ってほしい。
そうすれば、今までの二人に戻ることができるから。
ずるずると、口のなかで、先輩の舌が絡み付いてくる。背中に腕が回されて、ぐいっと引き寄せられる。息が荒い。下腹部が、ずんと熱くて、服越しでも敏感に互いを意識する。
先輩の指が、ワイシャツごしに、俺の背中をつうとなぞる。びくん、と反応する俺を面白がるように、舌が暴れまわる。
もう、戻れないね。
嬉しそうに、唇を離すと、先輩は囁いた。
抱きたいって思ってたんです、ずっと。一度でもいい、わがままだとわかっていても、最後まで、したいって。
さんざん抱き合ったあと、後輩にあたる年下の恋人になった男は、僕に甘えた視線を向ける。さっきまで、噛みつくように全身を愛撫し、射るように僕を見つめていたくせに、まるで虎から猫に戻ったような、かわいさを取り戻す。
「すいません、なんか……立てないです」
「え、大丈夫か?」
「気持ちよくて、じんじんして……」
頬が赤いのは、暑いせいじゃなくて、僕のなかに入っていた熱がまだ、余韻となってこいつの身体にまとわりついているからみたいだ。
「よかった、すごく」
「……え?」
「なんでもねえよ」
照れ隠しに、毛布を被った。
二人はもう、戻れない。
日常にも、仲間にも。
もう、愛し合ったから。
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