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「満開ですね」
「当然じゃない。お花見に出かける時みたいにねっ!」
「分かりました」
「それでどれくらい待てば良いの?」
「三日くらい頂ければ……」
「じゃあ三日後に。じゃあ」
さすがはもう何件も幻香師に依頼して慣れっこらしく飲み込みが早い。
かすみを玄関まで送り、居間に戻って来るとどっと疲れが出た。
「最近の子しっかりしてるんですね。あんなちゃんとした受け答え、私は出来なかったと思います」
怜一はうんざりしたように言う。
「しっかり? ああいうのはクソ生意気って言うんだよ」
「……あ、はい」
やっぱり苛立っていたようだ。
「さっさと終わらせろ。長引くと面倒そうだ」
「でも桜の花の香りは意外に難しいのは怜一さんだってお分かりではありませんか」
桜の花の匂いというのは直接嗅いでもほとんど分からないのだ。
たとえば大島桜は薫り高い芳香を楽しむことが出来るが、この辺りに生えてはいないだろう。
ほとんどの人がイメージする桜の香りはといえば桜餅の甘いかおりだ。
「あのな、お前みたいな新人に言われるまでもなくそんなことは分かってる」
「……そ、そうですね。すみません」
「あんなクソ生意気なガキのことだ。これまで、あれやこれやといちゃもんを付けまくってたんだろうよ」
「きっとこの依頼の為にお年玉を崩したんだと思います……。それだけ桜が見たいという気持ちは強いっていうことですよね」
「依頼人の事はどうでも良い。依頼をこなすことだけを考えろ。第一、親の同意書も持ってるんだ。金は親持ちだろう。ったく、ロクでも無いガキを甘やかすバカ親だ」
怜一は吐き捨てる。
「怜一さん。それは言い過ぎです」
じろりと睨まれる。
「お前はさっさと調合しろ」
「……はい」
葵はすごすごと居間を出た。
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