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自称死神の「目的」
――気が付きましたか?
女の子の声で目を覚ますと、私は病院の一室にいた。
「驚かせてごめんなさいね」
さっき私を線路に突き落としたはずの女子高生が、すまなそうな顔をして私を見ている。
時間はお昼過ぎ。4時間ほど気を失っていたようだ。
身体は背中が少し痛むぐらいだったが、悪い夢を見ていたようで気分が悪い。
彼女は、手帳のようなものを取り出して何かを読んでいる。私は彼女に問いかけた。
「あなた、どういうつもりなの? なんであんなことしたの?」
問いかけると、うつむき加減で私に話はじめた。
「許してください、信じてください、とは言いませんが、少しだけ、私の言葉に耳を傾けてくれませんか?」
私はうなずいて彼女の言葉を聞いた。
「私は、紫亜といいます。こう見えても死神です……」
「死神? 私を殺しに来たの?」
紫亜は首を横に振る。
「貴女はホームで気を失って、人身事故で命を落とすところだったのです。その前に足をけって転ばせて、病院までお連れしました」
「死神が人間を助けるの!?」
あまり聞かない話に私は驚きの声をあげた。
「はい。予定外の死を止めるのも任務なのです。貴女はまだ死ぬ時ではありません」
私は本気で死のうと思ってはいなかった。いくらなんでもこれはやり過ぎだと思う。
「だからって、ここまですること無いんじゃない?」
そう言うと、自称死神は手帳をパラパラとめくって、
「けがをさせてしまったことは謝ります。ですが、そうしなければならない理由がありました」
そう説明されたと同時に、廊下から足早に病室へ向かう足音が聞こえてきた。私の名前を必死に叫んでいる。青弥の声だ。
「王子様が来たようですね。私はこれで」
「あ、ちょっと!」
紫亜は手帳を閉じ、私に笑顔を見せた。その表情はとても晴れやかで可愛い、心に残るものだった。
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