012.目撃者に沈黙を(1)

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 十四台並ぶ防犯カメラの画面は、どれも薄暗い。五台は、裏玄関と駐車場を映し、残りが店内を捉えている。正面玄関に一台。清掃が済み、パチンコとスロットの台が整然と並ぶ三本の通路を、それぞれ両端から狙う。営業中の賑わいが嘘のようで、白々しく眠りに付く機械の群れは、昼間飲み込んだ人間の欲望をゆっくり消化しているみたいだ。最後の二台は、景品交換所のカウンターと、換金所に向けられている。  静止画のように動きのない画面は、正常の証だ。それらを虚ろに眺めながら、青年はスマホの通話アプリで彼女へ謝罪のメッセージを送った。  短い機械音が、すぐに返る。どうやら待ち構えていたらしい。 『あたし、楽しみにしてたのに!』  数時間前、今夜の予定が変わることを伝えて以来、まだ彼女の怒りは収まっていなかった。しかし、返事をくれるだけ、まだマシというものか。 『んなこと言ったって、斎藤のジイサンが熱出して、急に休んだんだから、しようがねぇだろ』  本当は、夕方までのシフトだったのだ。19時から交代するはずのハゲで小太りのジイサンは、自分が上がる30分前になって『熱が38度あって動けません』と電話してきた。だいたい、定年退職組の60近いジジイを警備員に雇う、この店もどうかと思う。まぁ、それだけ平和だってことだろう。  青年は、店長の泣き落としに遭い、渋々深夜1時までの残業を引き受けた。12時半には、去年40代で工場をリストラされた小林のオヤジが出勤してくる。後30分、それまでの我慢だ。 『花火大会、行きたかったのに』  猫が毛を逆立てているスタンプが付いて、恨み節は続く。  そう。今夜、隣町で季節を先取りした花火大会が行われた。『上瑞穂(かみみずほ)神社例大祭』という地元の古くからある祭の最終日、地域起こしのグルメイベントがタイアップされ、更に花火大会もあることがメディアで取り上げられたお陰で、ちょっとした話題になっていた。  グルメは諦めても、花火大会には間に合うはずだった。 『これから花火の季節だろ。今度どっか連れてってやるよ。な?』  なだめすかすが、しばらく返事はない。しびれを切らして、何か機嫌取りの言葉を探していた、その時。 「な、何だっ?!」  駐車場を捉えていた防犯カメラの映像が、プツリと暗転した。電気系のトラブルではないことは、残りの画面が消えていないことで分かる。
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