012.目撃者に沈黙を(1)

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「……何だよ、駐車場だけ?」  異常を示す五台は、どれも店外の駐車場を映すものばかりだ。  この町の規模にそぐわない、だだっ広い駐車場は、最高150台止めることができる。四隅に立てられた街灯に併設された防犯カメラは、事故や盗難防止のため、駐車場内全体を映し合うように設置している。更に一台、駐車場に面した店の出入口から外を広角に捉えている。計五台、監視体勢は完璧のはずだ。  青年はスマホをポケットにしまうと、警備員の帽子を被り、立ち上がる。賊の侵入――でもなさそうだが。  動揺している心臓を抑えつつ、正常に映っている残りの画面を慎重に睨み付けた。  大丈夫、店内に異常はない。青白い非常灯に照らされた通路も、入り口付近も、見知ったままの姿だ。  ――ボンッ!  突然、風船が破裂したような大きな音が、店内の静寂を打ち破った。深夜特有の淀んだ空気さえ、一瞬で覚醒し、不穏な気配を孕み始める。  ゴクリ、生唾を飲む。  駐車場で、何かが起こっている――。  青年は、もう一度、警備のマークが正面に付いた帽子を被り直す。護身用の警棒と懐中電灯を手に、足音を殺して警備室を出た。 -*-*-*-  防犯カメラに異変が起こる15分前――。  黒いミニバンとワゴン車、大小の車体が連なって、電飾の消えたパチンコ店に近づいて来た。  短針が頂点を越えようかという夜更け。この辺りは、人通りが数時間前から絶えた切り、車さえも滅多に通らない。  そんな地域の事情を熟知しているのか、二台はエンジン音を極力抑え、無灯火で近づいて来ると、駐車場出入口(ゲート)に掛けられた鎖の前で止まった。  目出帽を装着した全身黒ずくめの男達が五人、ワゴン車からバラバラと降りて、散開した。彼らは各々、高枝切りばさみを改良したペンチを器用に使い、防犯カメラから伸びたコードを一斉に切った。異常に気付いた警備員が駆け付けてくることは、予測済みである。  時を同じくして、ゲートでは別の男が太いペンチで鎖を砕き切った。悲鳴にも似た冷たい金属音を上げ、鎖がアスファルトに落ちる。  車が駐車場内に侵入する。建物から遠い位置に、二台はやや離れて並列駐車した。
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