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黒ずくめの男達が車まで駆け戻り、ペンチを仲間に渡すと、その内二人はパチンコ店の裏口に向かう。準備が整うまでに警備員が現れた時、邪魔されないように足止めするための要員だ。
ミニバンの運転手が降り、ワゴン車の運転手と共に、車中から麻袋が被せられた長い荷物を抱え出す。
「……うぅーっ!」
麻袋には太い縄が掛けられているが、抱えられると低く呻いた。猿ぐつわを噛まされているのかも知れない。くぐもった声から焦燥感が迸る。
残った三人の内、小柄な男がミニバンの運転席のシートを手一杯引いた。
開いたドアから、二人がかりで運んだ麻袋を乗せる。必死に身を捩っているのか、呻きながら動き続けている。運転手達が離れると、小柄な男は全く気にする素振りもなく、麻袋にシートベルトをガチリとかけた。
ミニバンの周囲では、手際よく作業が進行している。
一人がボンネットを開け、棒状の束を差し入れる。別の一人はトランクを開けた。中にはアタッシュケースが入っていた。
更に別の男は給油口を開け、そこにワゴン車から運び出したポリタンクの液体をかける。液体は、車の周囲にもぐるりとかけられた。
ガソリン特有の強い臭いが辺りに漂う。
麻袋にも届いたのだろう。閉じられた車内で激しく暴れているが、悲しいかな、縛られシートベルトで抑えられた状態では、この先の悲劇を避ける術はない。ミニバンがゆさゆさと恐怖に揺れている。
作業を終えた男達は、頷き合うとワゴン車に乗り込んだ。裏口で張っていた二人も拾い、ゲートから走り去った。
街灯に照らされた広い駐車場に、ミニバンだけが取り残された。車体から伝う滴が、タイヤの足元で微かに光る。無駄な足掻きと知りつつも、諦められない一縷の希望が、微かに影を揺らし続けている。
――ボンッ!
不意にトランクで爆発が起こり、アタッシュケースから火の手が上がった。
車内の麻袋が狂ったように跳ね、エアバッグが作動する。絶叫が漏れるが、ガソリンに伸びた炎の舌が車を包み込むのに時間はかからない。瞬時にミニバン全体が火柱と化した。
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