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月曜の朝。優華の部屋から帰宅して、出社する。
土曜の夜にアフターが入っていた彼女は、日曜の午後になって急に『会いたい』とメールを送って来た。
俺が飛んで行かない訳がない。
精のつく高級中華店で早めの夕食を取り、彼女の部屋に戻った後は、たっぷりと濃厚な夜を過ごした。お決まりのように朝食を振る舞われ、帰宅したのが八時過ぎ。
若干の寝不足は否めないが、身も心も満たされている。
「おはようございます、譲治さん」
総務部の事務所に入ると、部屋のあちこちから挨拶が飛んでくる。
「おう。……それ、昨夜の事件か?」
全体に向けて返事しながら、デスク上に用意された数種類ある新聞の一面をザッと確認する。続けて、応接ソファーの前に陣取っている青緑色の塊へ声を掛けた。
「譲治さん、おはようございます。そうなんです、派手な殺り方ですなぁ」
上半身だけ振り返って挨拶すると、金岡はテレビ画面を示した。元々の強面に渋面が加わり、無駄に迫力を醸し出している。
近隣住民が撮影したという映像には、飛び交う怒号と喧騒の中、炎の塊を消火している様子と、鎮火後に顕になった黒焦げの車の残骸が映っている。この車内からは、身元・性別不明の焼死体が発見されたらしい。
今朝から何度も耳にする物騒な事件。新聞でも、海外テロのニュースに並んで大きく報じている。
ここまで派手に殺害を知らしめるやり方は、見せしめか、クライアントへの報告か――何れにしても素人の犯行ではない。
「おはようございまぁす」
どこか眠たげな様子で、裕太が出勤してきた。
相変わらずミルクチョコレートのような色のパンツを履いているが、トップスは珍しくオフホワイトのポロシャツだ。これはこれで白熊のように見えてしまうから、不思議である。
「何だボウズ、夜遊びか?」
「違いますよっ。おはようございます、譲治さん、金岡さん」
頬を膨らましかけたものの、きちんと俺達に挨拶を済ませる。こういう律儀なところは仔熊の美徳――いや、単なる処世術か。
「あっ、やっぱり、これ事件だったんだ」
サーバーで先輩連中のコーヒーを落としながら、裕太がテレビを指差した。画面には先程見たばかりの『消火中の映像』が繰り返されている。
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