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リセット
人間が側頭葉から自分の記憶を取り出して管理するのが当たり前の社会になってから、僕たちは夢を見なくなった。
そもそも〝夢〟と呼ばれる現象は、脳が眠っている間に記憶を整理するためのプロセスだったわけだから、それを機械によって行うことで、人は夢を見る必要がなくなったのだ。
僕らは毎晩、眠る前にメモリーリーダーと呼ばれるヘルメット型の装置につながれる。最近ではベッドとメモリーリーダーが一体化したものがごく一般的で、夜、眠るために横になるだけで記憶の整理が行われる。
脳から取り出された記憶は即座に言語化、数値化、映像化され、端末に保存。不要な記憶と必要な記憶はあらかじめ使用者の方で設定できて、「不要」の項目に振り分けられている記憶は端末に送られた時点で自動削除されることになっていた。
そして必要な記憶だけが脳に戻され、その日あったどうでもいいことや嫌なことは綺麗さっぱり、思い出から消えてなくなる。もちろん、あとになって要らなくなった記憶だって手動で消すことができる。
まったく便利な世の中になったものだった。おかげで忘れたくない大切な記憶については、ロックをかけて大事に保管することもできるし。
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