神を殺す日

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 俺は王となるべく与えられたその力を駆使して、世界中のあらゆるシステムをハッキングし、人類の掃討を開始した。核兵器保有国からミサイルを拝借し、開発中の生物兵器を盗んでバラ撒き、そして今、最後の人類が身を寄せ合うシェルターの掃除(・・)にかかっている。  戦闘開始から1時間後。突入した自立型戦闘人形に続いてシェルターの入り口を潜ると、非常灯の明かりでぼんやりと明るいエントランスは、死体と臓物と肉片の海と化していた。奥の方から銃声や悲鳴が聞こえるところを見ると、まだ生き残りがいるようだ。たぶん、戦闘には加われない老人や女子供だろう。  俺はモーシェのごとく颯爽と赤い海を渡り、前線へ赴く。そこでは幼子を庇うように抱えた母親や、見るからに病人らしい老人が、次々と凶弾を浴びていた。  その中にひとり、壁際にうずくまって震えている女がいる。歳の頃は十二、三くらい。女というよりは少女だ。瞳孔の開き切った両目を見張り、誰かの血を浴びて真っ赤になった十字架を握り締めながら、ガチガチと歯を鳴らしている。……クリスチャンか。ちょうどいい。 「撃ち方、やめ」  俺が日本語で命令すると、頭部にある極小の電灯を点滅させて、人形たちが斉射をやめた。この部屋で生き残っているのはもうあの女だけだ。俺は女に歩み寄り、血飛沫で斑になった金髪を見下ろしながら、問う。 「お前は神を信じるか?」     
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