神を殺す日

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 女は青い()で俺を見上げた。長い睫毛の下では恐怖と憎悪と諦めとが、見る影もなく涙でぐしゃぐしゃになっていた。 「神様はいるわ、M-06(モロク)」  と、細く掠れた声で女は言う。M-06(モロク)。今の俺の名だ。  いつしか人間たちは俺をそう呼び、恐れるようになっていた。俺の名からハイフンを抜くと「M06」になるから、ここからもじって「MO()(ロク)」。  最初にこの名を唱えたのは日本人だ。それがキリスト教の悪魔――布教のために取り込まれ、デモナイズされた異教の神――の名と一致することから、瞬く間に世界中へ広がった。  ちなみにモロクという名前は、ヘブライ語で〝王〟を意味するらしい。人類が俺をそう呼び出したのは果たして偶然か、はたまたただの必然か。 「なら、お前の神はどこにいる?」  と、俺は女に銃を突きつけながら尋ねた。これで人類の掃討は完了(コンプリート)。あとは神を見つけて始末するだけだ。  それが〝神を凌駕する〟ということ。イシイが俺に与えた命令。  そのミッションを達成して初めて俺は王になれる。王にならねばならない。何故ならそうあれかしと、死んだはずのイシイが耳元で囁き続けるから。 「神様はね」  と、女が刹那、ジャック・オ・ランタンみたいに(いびつ)に笑ってこう言った。     
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