夢見る男色マタドール(怒)

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良かった、そう思える日が増えた。 あの日の自分に報告したい。俺は今でも忘れないのだ。あの日、夜空と我が人生を紅く染め出した太陽を。神の社に濛々と舞い上がる粉塵を。殻を突き破るような、何処か産声にも似た咆哮を。 夜明けの前が一番暗い。 ※ 職業、男色マタドール(怒)。東京に来て今日で十年となる。 我ながらとんだ親不孝息子だと思う。誰もやったことない事をやりたいからって、親の反対を押し切って男色マタドール(怒)になった。十年続けてわかったのは、男色マタドール(怒)には全く需要がないってこと。あのアップル社だってはじめは小さなガレージから始まった、そんな成功者の苦労話を糧に生きてきた。情熱だって努力だってジョブズに負けてる気は毛頭ない。が結果は歴然。何かが決定的に負けていたのだろう。 嗚呼、今日も何一つうまくいかなかった。今日も、というのがミソである。生まれてこの方、自分が思うように事が進んだ試しは一度もない。それでも「自分は間違ってない間違ってない」と心の中で言い聞かせていると、それじゃあなんだか間違っているみたいじゃないかと笑えてきた。嗚呼、失敗でしか年表を作れない我が人生よ。悲しい虚しい大嫌い。 とまぁ、そんな情けないことを深夜アルバイトの休憩時間に考えているのだから切なさは倍増だ。 着慣れたバイト着のまま煙草に火を付ける。ふと三月の寒空を見上げると、綺麗な月が出ていた。風俗店が立ち並ぶ細い路地から見上げる月。バイト先で煙草を吸えるスペースが、ここだけなのだから仕方ない。哀しいかなこの十年間で、一番見上げたであろう月がこの風俗店越しのものだった。昔から割に月好きな俺にとって、こんな場所から見上げているというこの現状。月に謝りたくなった。ロケーションもさることながら、自分自身が荒んでしまっている。
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