夢見る男色マタドール(怒)

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月は、いつも変わらず照らしてくれる。変わらない所がいい。俺は今まで生きてきて、実に多くの人達と月下で笑い語らってきた。何でもないような人達も、俺の人生における重要な登場人物達も。そんな人達は今、一体何処に行ったんだろう?殆んどいないように思われるが。 正直、男色マタドール(怒)になってからというもの、周りの人がどんどん自分から離れていく感覚がある。否めない。それは、俺が人を引き留められるような人間じゃないから。もう一度言う。俺が人を引き留められるような人間じゃないから。皆んなは変わるが、俺は変わらない。変わらない所がいい、月とは違う。この場合、変わらない所が悪い。罪悪。自分の人生における重要な登場人物くらい守ってみたいよ馬鹿野郎。 嗚呼、もっと澄んだ心で月を見たい。そんなことを恥ずかしくも願った。しかし仕事の充実、家族の充実、色々な充実が決定的に足りていない俺は、そんな願いが叶うまで、あとどれだけ何かを頑張ればいいのだろう。頑張る対象を「何か」なんてふんわり仕上げている時点で無理なのだろうか。でもまぁそれがわからずとも、「何か」を頑張るべきということに違いはないので、無差別的に何でも頑張ろうという漠然とした決断とも言えない低温度の決定をする訳で。 とまぁ、そんな自慰行為ともとれるようなことを考えながら、本当はそこまで美味しいと思っていない惰性の煙草をくゆらせる。届きもしない月に手を伸ばす。涙が流れた。そして、俺は無計画にバイトを辞めた。 深夜三時の帰り道。降っていると言えば降っている、降っていないと言えば降っていないレベルの不快な霧雨。街の雑音はあったような気もする。が、俺は無音の世界に一人でいるような心地だった。それは自分だけの世界、なんてスマートなものではない。もっとネガティヴで、孤独で、惨めな、絶望世界だった。
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