夢見る男色マタドール(怒)

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バイト先からほど近い自宅へ直帰する気になれなかった俺は、街中を歩いた。色んな思考が頭を掻き回したが、自然といつもの現実逃避へ考えは向かっていた。 下には下がいる。下には下がいる。下には下がいる…。ふぅ、少しだけ落ち着いた。俺はいつもこうやって「下には下」に思いを馳せることで、精神安定剤としているのだ。俺以外にも、悲しくて虚しい奴らなんて幾らでもいるんだって。上には上がいるで頑張れる人もいれば、下には下がいるで頑張れる人もいるんだって。 わかってる。自分でもわかっているんだ。この思考法が、輪をかけて悲しくて虚しいってことくらい。また、涙が流れた。泣いてどうにかなるようなことでもないのに。だけど、涙が止まらない。こんな夜を、あと何回俺は過ごすのだろう。無力な自分が厭なのに、無力な自分でい続ける。今を涙や言葉にして楽になろうとしているのか。真逆の自分が理想の筈だ。頭ではわかっているつもり。だけど涙が止まらない。全てを終わらせる勇気もない。死にたくない。死ぬ準備が何一つ出来ていないから。死ねない。どうする。俺は俺を全うすべきだ。俺は俺を全うすべきだ。俺は俺を全うすべきだ。そう、ポジティブな意味での死ぬ準備をしなくては。死ぬ準備。死ぬ準備。死ぬ準備。 凍てつく風と、深夜の闇の物寂しさと、自分の心の弱々しさを、内から外から感じながら俺は徘徊を続けた。そして気付けば両親のことを考えていた。 「お宅の息子さん何されてるの?」「だ、男色マタドール(怒)です。」 本当に頭が上がらない。たまに電話して「元気?こっちは元気」なんて笑って振る舞うが、ここ何年かは後ろめたさから心から笑えていない。 そういえば最近、ろくすっぽ里帰りできていない自分を正当化する為に母さんへ電話した時、 「貴方はいつも夢を語るから、きっと努力してるんだろうね。努力してない人は愚痴を語るとかっていうじゃない?」 と言われて、堰を切ったように泣いてしまった。もちろん向こうにバレないように。認めてもらえた嬉しさも多少あったのかも知れない。が、悔しさと不甲斐なさが入り混じった、不本意に熱い涙だった。実体がまるでない俺の夢に対して、なんとか優しさを振り絞ってくれた感じがして。とてもやりきれなかった。涙の量からして、電話越しで本当に助かった。
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