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「なに? この俺を、どうにかできると思ってるの?」
対峙した法師の額から、汗が流れる。
「わしの力ではどうにもならんっ」
「だよねぇ~。
あんた、弱そうだし。
今までだって、俺に傷ひとつつけられなかったんだからさ。
もういい加減、諦めなよ」
そう言って妖狐は法師に背を向け立ち去ろうとした。
「あぁ。
わしの力ではどうにもできんっ。
だから、これをっ」
法師が手を懐にいれた。
妖狐は半身で振り返ると、いぶかし気に術者の手元を見据える。
法師が懐からゆっくりと出した手に握られていたもの。
それは、手の中にすっぽりと納まるくらいの小さな赤い石だった。
「-っ!」
妖狐の相貌が一気に鋭くなり、法師へと向き直る。
「ほう。
これが何かわかったようだなぁ」
「貴様っ、それをどこからっ」
「狐たちを使った蟲毒の法から生まれし、唯一妖狐を封印できると言われる封じの石じゃ」
妖狐の口元がにわかにゆがみ、法師との間に緊張が走る。
「貴様が術を使う前に、貴様の魂を喰らってやるさ」
妖狐が一層強く、法師をねめつけたその双眸には不快を通り越した怒りが見て取れる。
法師が錫杖を打ち鳴らし、口の中で呪を唱える。
同時に銀髪の妖狐が法師へととびかかった。
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