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__だめだ・・・何を考えたらいいのかわからない・・・
__誰に腹が立っているのかも、わからない・・・
思考はピタリと止まったまま、時間だけが過ぎた。
ぼんやりと見ているはずの境内の景色は、兎蒼の目には何一つ映っていなかった。
誰もいない境内で兎蒼のため息を、5月の風がさらった。
「泣いておるのぉ~」
不意に声をかけられて、兎蒼ははっと顔を上げた。
そこに立っていたのは黒い束帯姿の初老の男性だった。
言われて自らの頬に手を当てて確かめてみるも、涙など流していない。
兎蒼は上目遣いでその男性を見上げた。
「あの、私別に泣いてなんていませんけど」
思ったより、冷静に声が出せた。
「そうか?
それはわるかった。
お主の心が泣いているように見えたのでな」
そういうとその男性は静かに兎蒼の隣に腰を下ろした。
梅の香りのような、華やかな香りがふわりと兎蒼の鼻腔をくすぐった。
「郁学高校の生徒か?」
「えぇ、まぁ・・・」
「その制服・・・久しいのぉ~」
男性は兎蒼の来ている制服のジャケットをチラリとみると優しく微笑んだ。
__なんだろう・・・このおじさん・・・へんな格好・・・・
__ここの・・・、神主さんかな・・・・
「あのっ、久しいって・・・」
「あぁ、少し前にな。
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