自然はグレートだ

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森野(もりの)、今日は天気いいぞ。テレビでも言ってただろ? 気持ちのいい小春日和だよ、小春日和。小春日和なんて、聞いただけで心がウキウキするじゃないか。メキシコのテキーラ日和とはわけが違う」 「杉花粉に注意とも言ってたよ。ていうか、テキーラ日和ってなに」 「人間は自然現象には敵わないんだから、我慢するしかないだろ。カーテン開けるぞ」  軽快な音と共に部屋に光が差し込み、僕は顔をしかめる。勝手に開けないでよ、と文句を言う。僕の声が聞こえているのかいないのか、彼は気持ちよさそうに、上半身を反らせながら伸びをした。 「日差しは気持ちいいな。自然はグレートだ。こんな日は、太陽の踊りを踊りたくなる」  そう言うと、彼はぴょこぴょこと軽快なステップを踏んだ。床で、ベッドの上で、本棚の上で、窓辺で、彼は手を振りながら踊る。太陽からの光を反射し、彼の緑色の鱗とつぶらな黒い瞳が光っていた。  三十センチほどの体躯で、彼はまるでトカゲのようだ。頭部から生えている小さな数本のトサカを揺らしながら、人間のように二足歩行で部屋の中を縦横無尽に動き回っている。わかるかもしれないが、彼は人間ではない。彼は、彼の言うところの「グレートスピリット・偉大なる精霊」なのだそうだ。彼はココピロウ、ココペリと呼ばれるネイティブインディアンの精霊だ。いや、冗談ではなく。 「今日も高校行かないのか?」  僕は無言で答える。 「今日も引きこもるのかよ?」  僕は引きこもりではない。僕は一年目を突破した高二の不登校である。胸を張って言えることではないが、外出はするし、落とさない程度に高校にも行く。だから、引きこもりではない。視界の隅で跳ね回るココペリを見ながら、僕は眉間に皺を寄せた。
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