偉大なる精霊って知ってるか?

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 ある日、僕は電車の中でぐっすりと寝てしまい、随分と遠くまで行ってしまったことがあった。車窓からの景色には突き抜けるようなビル群がなく、代わりに畑や田んぼが点在している。車窓が一枚の絵画だとしたら、そのキャンバスの大半は鮮やかな緑色だ。  僕は適当な駅で下車し、近辺を歩き回った。口にすると陳腐だけど、空気をおいしく感じた。店や人が少ない代わりに広がる田畑や、それらを囲む林や森がなんとも長閑だ。喧騒とは無縁で、ただ生きるための場所であるように感じた。普段乗っている電車の線路の先に、こんな場所があったのかと思うと感慨深い。  そんな悦に浸りながら歩いていたら、声をかけられた。 「おい、お前。こんな時間にどうしたよ? 学校は?」  低く、威張ったような口調だった。  面倒な大人に捕まった、と思いながら心の中で舌打ちをし、僕は用意している言い訳リストの、「具合が悪いので早退」か「創立記念日でお休み」か「午前中授業」のどれにしようかを考えながら振り返る。  しかし、振り返った先に人影はなかった。胸を撫で下ろす一方で、先ほどの声が何だったのか不安がこみ上げる。その不安を見透かしたかのように、再び声がかけられた。 「ここだ、ここ。下だ」  僕は声のした方、つまり地面を見た。  息を呑み、言葉を失う。     
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