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「明美!!」
必死に伸ばした手が、虚しく空を切る。
春の寝やすい気候の中、私は酷い悪夢にうなされていた。
その原因は、分かっている。
親友の明美が事故にあったからだ。
駅で電車を待っている時に、プラットホームに落ちた。
目撃者はおらず、田舎の駅で監視カメラという文明の利器は残念ながらついていない。
幸い明美は、スピードが落ちた電車に当たった為、ミンチ肉になる事はなかったが、意識不明の昏睡状態で本人から事情を聴くことは出来なかった。
自殺か、事件か、事故か――
真相は未だ闇の中。
「明美、早く目を覚まさないかな……」
「美夢と、明美ちゃん、仲良かったから心配だね」
彼氏の勇が、そっと私の手を握ってくる。
安心する、温かく優しい手。
「今日、学校終わりに明美のお見舞いに行ってみる」
「俺も付き合うよ。花でも買っていこうか」
「そうだね。明美の好きな花を買っていこう。……明美の好きな花って……なんだったかな?」
「オレンジのユリだったよ」
「そうだったね」
学校終わり、彰と一緒に明美が入院している病院へオレンジのユリを持って向かう。
包帯だらけの痛々しい姿の明美。
「可哀想に、明美」
「美夢は、優しいね」
明美の手にそっと手を重ねる私の手に、勇も手を重ね優しい笑みを浮かべて、私を見てくれる。
「勇君、大好き」
「俺も、大好きだよ」
「明美より、私の方が好き?」
「勿論だよ。俺は美夢が好きなんだ」
『ねぇ、明美。だから言ったでしょ。勇君は私が好きだって……』
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