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ガサ、ガサ、ガサ……
生い茂る草木をかき分ける音。鬱蒼と茂る木々。どうやら森の中だ。
カー、カー、カー……
時折、木々に止まったカラスの鳴き声が聞こえる。時刻は午後五時過ぎ。初夏故にまだ西日が活躍中だ。けれどもここは、木々が陽射しを完全に遮っている。それほど木々が茂っているのだ。見たところ、人間は誰も居ない。少なくとも、生きている人間は。生の存在は、鳥や大地に蠢く虫や狐や狸などの動物だろうと推測される。
ガサ、ガサ、ガサ……
そんな場所を、一人のうら若き女性が彷徨い歩いている。少女と言ってもよいだろうか。右手で、身長と同じくらいあろうかと思われる草木をかき分け、左手には小動物が入っていると思われる動物用キャリーバッグを持っている。そのキャリーバッグは白と水色のストライプ模様だ。彼女は歩く姿に生気がない。瞳も虚ろだ。肩の下まで伸ばされた褐色の髪は、元々はポニーテールを結っていたと思われるが、小枝や草などに引っかかったのであろう。酷く乱れたまま、気にもかけていない様子だ。頬や顎も、この深い森を彷徨いあるいているうちに汚れたのだろうか。土がついてるようだ。
桜色の地に、桃色のサクランボ模様がついたXラインの半そでのワンピースに、白いレースの長袖ボレロを着ている。靴は茶色のローファーだ。白の網タイツを履いている。荷物は、白く小さなショルダーバッグだけだ。
この不気味な森に、このいでたちはいささか不釣り合いである。少女チックな服装が、やけ目立つ。しかし、この少女は服が木々に引っかかり、穴が開いたり破れたりするのもお構いしに歩いていく。キャリーバッグの中の小動物は、薄茶色か明るい茶色のフワフワモフモフの生き物らしい。心配そうに、少女を見上げていた。
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