第一部 第一話 生と死、夢と現《うつつ》の狭間で……

5/8
前へ
/89ページ
次へ
 そして低木の前に行き着くと、そっとモグを足元におろす。そして水の入ったミニペットボトルを左の小脇に抱え、右手に持っていた小瓶の蓋を取り、蓋は地面に転げ落ちるままにする。左手の平に白い小さな錠剤を半分ほど開けた。そして口にガボリと放り込む。  プーイプーイプーイ モグは必死に彼女の足首にしがみついた。何とか止めようとしているのか? 悲しげにモグを見下ろすと、一気に水で薬を流し込んだ。すぐに残りの錠剤を手に取り、口の中へ放り込む。そして一気に水を飲み干した。  ホーッと大きく息をつくと、小瓶とペットボトルを足元に置き、バッグをたすきにかける。 「モグ、ごめんね。何とか幸せに生きられますように」  とかがみ込んで右手で優しく背中を撫でると、そのまま木にしがみついた。そして一番 低い枝に右足をかえる。ワンピースの裾がはだけ、あられの無い恰好になっても。服が小枝に引っかかって破れてもお構いなしに上っていく。左足をかけ、右足をかけ、交互に少しずつ。そして予め、紐を結ぼうと決めていた太い枝えと両足をまたいで座った。  キューキューキューキュー 下ではモグが、心配そうに見上げ、必死にジャンプしている。バッグの中から凧糸とミニ鋏を取り出した。まずは凧糸を木に括り付ける。 (これ、よく考えたら体を支えるには細すぎよね。ぶら下がったら、もしかして首がもげるかしら……)  などとぼんやりとと思う。少しずつ、薬が効いてきたようだ。全身が怠くて、脳内に濃霧がかかったようにボーッとし始めた。瞼が異様に重くなる。全身麻酔とはこのような感覚か? というように急速に強烈な眠気が襲ってきた。必死に紐を括り付けるも、指先に全く力が入らない。鋏を使うのは困難だと悟った美言は、鋏はバッグにしまい込んだ。急がないとこのまま意識を失ってしまう! とにかく、首を吊る輪を作ろうと必死に手を動かした。  キューイキューイキューイ 下でモグが必死に鳴き叫ぶのと、美言が縄の輪に両手をかけ、その輪に首を入れようとする事、そして急速に抗いがたい強い眠気に襲われて意識を手放す事。これらがほぼ同時に行われた。
/89ページ

最初のコメントを投稿しよう!

45人が本棚に入れています
本棚に追加