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周りを見てみると、明らかに樹海とは異なる場所にいた。そこはグニャグニャと曲がりくねった大小様々な黒い木々が立ち並び、大地は檜皮色の湿った苔のようなもので覆われている。空は赤紫色だ。赤黒い夕日が空に浮かんでいる。半径五メートルほど先は霧が立ち込め、よく肥えた大きな蛾があちらこちらに舞っていた。
正直、樹海以上に得体の知れない薄気味悪さを覚える。けれども美言にはここがどこだか分かるような気がした。
「あの世、ですか? この先をいくと、賽の河原とか三途の川がある……」
獣に問いかけた。どこか懐かしさを覚えるせいか、明らかに異形の存在であるが恐怖心は湧かない。だから話しかけることにそう抵抗は無かった。
「その質問に答える前に。私がまだ分からないか? 毎日一緒にいただろ? つい先ほどまで一緒にいた……」
その獣は言った。微かに笑みを浮かべているように見える。
「え……でも……」
迷った。このような異形の生き物に心当たりは無い。けれども、とても懐かしい。愛しささえ感じるこの感覚は……。
「えーい、焦れったい!」
「え?」
それは先ほどのようにビオラのような落ち着いた深みのある声から、フルートみたいに澄んだ、ボーイソプラノのような声色に変わったのだ。
「あ!」
それは突如として体の奥から金色の光を放つ。美言は眩しくて目を細めた。一際強く輝くと……。
「僕だよ! 美言!」
それは15cmほどのふわふわもふもふした……
「モグ!!!」
ピョン! モグは美言の腕に飛び込み、美言はしっかりと抱きしめた。
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