本編

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――ようやく、あの最低男とおさらばできる。  女は自分のすぐ後ろでクローゼットの中身をまとめている男の事を考えながら、心の中で悪態を吐いた。手を止めるととにかく嫌味の言い合いになる為、荷物をまとめるのが疎かにならないように。  都会の中でも、若者が特別憧れる街の真ん中――というには少しだけ外れた場所にある、ローヌに塗られた外壁が美しいアパルトマン。年季はあるが、改築されて真新しい建物のようであった。以前より彼女達はそこで暮らしていた。過去形であるのは、彼女達はもうすぐ恋人同士ではなくなるからだ。……残念ながら、めでたい意味合いでは無い。  クリーム色の壁紙が端までピンと綺麗に貼り付けられていて、リフォームしたばかりの独特な匂いの満ちる部屋が、同棲を始めた頃の記憶だった。数年程前か。  そして今、時間が経つに連れて壁紙の端の糊が少しずつ弱くなり、捲れつつある壁紙と、二人の使うソープの匂いが馴染んだ部屋。各々がこだわっていた家具は姿を消し、今ではそれぞれの私物がダンボールに分けて詰められ積み重ねられるばかり。     
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