記憶

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「ねぇ、ララ、ララはいつまでも、その言葉通り、いつまでも、ずっとララのままでいてくれるかい?」 「そんなの当たり前じゃない。ララはいつまで経っても、その言葉通り、ずっとララよ。」 八歳の頃の私は信じきっていた。私はずっとララだし、ララは私しかいないと思っていた。実際に同名の生き物なんてたくさんいるのだけれど、そういう事じゃなくて。このララは、別のララじゃないララは、これから先もずっと私だけで、私は私を私だと思っていたのだ。おじさんが死んで6年経った今でもおじさんの言葉は生きている。私の中で、ちゃんと、音声で、おじさんの声で再生される。今も忘れられないまんま、私はおじさんのいない時間を過ごしてしまっている。おじさんが何を思ってそんなことを聞いたのかは今でもよく分からないが、その質問の意図は最近少し分かる気がした。そして、その質問の答えを私は間違ってしまった気もしていた。ララはいつまで経ってもララである。だが、ララはたぶん、ララじゃない部分をララの中に見つけはじめている。見つけた上で、隠している。ララじゃないということをバレないように。 嘘をついたことがバレないように。 ララは大人になる。おじさんの知っている世界を知る。ララの中の色々なものが壊れていく。壊していく。 ねぇ、ララ。ララはいつまで経ってもララなのかな。 ねぇ、おじさん。おじさんが今のララを見たらララだと思うかな。 午後五時。歩道橋の上から見た世界はオレンジ色。あの時もそんな色をした世界でおじさんと二人、息をしていた。 ほんの数分の、思い出。
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