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申し訳なさそうに少女が口をはさむ。
「何かあるとすぐ気を失っちゃう体質で……」
「なるほど。世の中広い。そういうこともあるかもしれないな。ね、警部殿」
「千早さんがおっしゃるのなら!」
根っから一つのことしか見えていない男をかどわかすことなど、千早にとって簡単だった。
「あぁ、そう言えば名前を聞いていなかったね。君の名は?」
「えっと……葉月桜子です」
「桜子さん。きれいな名前だ」
ニコリと笑うと彼女の脈は急上昇した。
「私は神降(かんぶる)千早だ」
「千早……さん?」
「よろしく……」
白く陶磁器のような手を差し出す。少女は戸惑いながらも握手を交わした。千早の手のあまりの冷たさに少しぞっとしながら……。
「そして彼は鳳凰院静流(しずる)警部殿」
「鳳凰院?」
「有名な華族、鳳凰院家の御曹司さ」
「ちなみに千早さんは僕のフィアンセだ!」
「え、フィアンセって……」
「勝手に設定を付け加えないでおくれ……」
ため息とともに千早は苦言を呈する。
少女はきょとんとした顔をした後、慌てて取り繕うように、
「あっと……、ごめんなさい。てっきり殿方かと思ってしまって」
確かに千早は男の子にも見える。かといって女の子に見えないわけでもない。
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