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そう言いながら警部は乗客室にしつらえてある多少の揺れではびくともしない机を指さす。
「たとえば転んで頭を打ったとか。……そこの机の角に頭をぶつけて!」
確かに机の角は凶器になりそうなほど重厚な作りをしている。実際ここに頭をぶつけ、打ち所が悪ければ死んでいるだろう。
「しかし、警部殿。この角には血などついていない」
これだけの出血だ。頭を打ったなどとなればかなりの血がついているだろう。
「犯人はこの机を凶器とした。そして、犯行後、もしも、犯人が血を拭いたとしたら、ここだけ血しぶきが飛んでいないことも説明がつきますよ!」
「なかなかに鋭い」
しかし、
「それはどうだろうな。事故だとしたら、そもそも犯人などいないだろう」
そうだった。
「ふふっ、なかなかひやひやする推理だったよ」
「と、いいますと?」
「さすがは名警部殿だ。惚れ直しかけたよ」
彼はここが現場であることを忘れてガッツポーズをしていた。
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