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それは全く大事なことではない。
「私が宝箱に入れていたネックレスだ」
「汽車の揺れで散乱した宝石の一つをつかんだんでしょうか?」
「面白い見解だけど私の意見は違う。この宝石箱はさっきも言ったとおり、机の中にしまっておいたんだ」
「はて、それは不思議です」
「そうだろう。汽車の揺れがひどいのは分かるとして、そのくらいで机の引き出しはあいたりしない。一応汽車専用にあつらえてあるのだしね。ここで私は考える。これは彼女が探し当てたものではないか?」
「確かに引き出しには鍵はついていませんでした」
それにしても、もう一つ警部にとって不思議なのは、千早とずっと一緒にいたのに、宝石箱を持ち込んでいたことも、それを机の引き出しにしまっておいたことも知らなかったことだ。
だが、千早と一緒にいると不思議なことはよくあるので警部はさっさと疑問を払ってしまった。
それがなんとも千早に甘い警部の癖であった。
今はそんなことを知る必要はない。今、知りたいのはこの死体の正体だ。
「では、千早さん。彼女は……」
「断言しよう。彼女は宝石泥棒だ」
「なんと、泥棒!」
大げさに驚くほどでもない。千早には最初から分かっていた。
「では……」
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