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「庶民というものは押し並べて自分がどんなの製品を使っているか知らないものなのだよ。君だって今日食べた食堂車の料理を担当したコックの経歴などつゆも知らないだろう」
「む、確かに……」
「それに普通の国民にとって雲の上の存在である華族より、近くの庄屋の方が恐ろしいものなのだ」
「そうなのですか?」
逆に大金持ちである警部にはピンと来ない話であった。
「といっても彼女も女学校に通えるだけの財力を持つ家の娘なのだから、この事件がなくとも鳳凰院の名はいずれ知るところとなるだろう」
「そ、そうですよね!」
警部はやっと胸をなでおろす。
「す、すみません。世間知らずで」
恐縮そうに桜子は何度も謝った。
「気にしてないよ!千早さんの言うことに間違いなどないんだから!」
「うーん。私は存外、自分が嘘つきだと思ってるけれどね」
「そんなことはありません!千早さんのことは僕が保証します!」
「だ、そうだ。つまり桜子さんに謝る必要などない」
「もちろんですよ!千早さん!」
「ふふ……」
「……」
いつもの二人のはずなのだが、一般人である桜子にはついて行けない世界を醸し出している。
別世界の二人。やはり一等車の乗客についてこなければよかったかもしれないと、桜子が後悔をしかけていると、
「別に引け目にとることなんて一切ないさ、桜子さん」
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