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「うう、なんという感激の言葉。千早さんに喜んでもらえるとこの鳳凰院静流。この上ない幸せ!」
別に喜んでいるとは言っていないのだが、ここで訂正するのも野暮というもの。千早はここで手を上げてボーイを呼んだ。
「お食事をご用意してもよろしいでしょうか?」
「頼むよ」
大きく頭を下げると、彼は一度キッチンに戻り、二枚の皿を用意した。
「鮭のテリーヌでございます」
「おぉ」
「ふむ」
その美しさに二人とも感嘆の声を上げた。
「このような食事を列車の中で食べられるとはね」
「時代は進みましたよ。千早さん!」
「これで温かいものを食べられば今の季節、最高なんだけどね」
大正時代の汽車の食堂車では皿盛りのコースが提供されるが、基本的に冷えているものが出される。それは食堂車とはいえ、社内で火を取り扱うことのむずかしいのだ。
「しかし、よき日ですなぁ」
鮭のテリーヌにナイフを入れながら鳳凰院静流が言った。
「このように、千早さんと二人きりで旅行に出られる日がこようとは!」
「たかが高崎までだろう」
「それでも旅行は旅行です!」
「まぁ、座りたまえ……」
興奮気味の青年に対して千早はどこか疲れたようにも見える。
「そもそも警部殿。これは旅行ではなく、弔問の一環であることをお忘れなく……」
「ええ、そうですが……」
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