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「警部殿の働きを期待しているよ……」
社交辞令を言ってやると青年は、はい!と再び立ち上がった。
やれやれと思いながら千早もナイフに手を伸ばす。
性別も年も言っていないのに、自分を年下の少女と決めつけ、一人でテンションを上げる青年。何も家柄がいいから付き合っているわけではない。
人が扱いに戸惑う自分に対して積極的にかかわること。そしてもう一つ重要な利点があるからこそ、こうやって旅行まがいのことだってしているのだ。
「やれやれ警部殿、落ち着き……」
たまえと言いかけた時に、その悲鳴は聞こえた。
「ん?」
千早はナイフを置く。
「今、一・二等車から声が聞こえなかったかい?」
「そうですね?」
「ひっ!」
ドレスを着た中年の女性が食堂車に駆け込んできた。その女性は顔面蒼白だ。
「誰か、助けて!」
青年は職業柄、千早は性格から声に反応して腰を上げる。
「いかがなされました?ご婦人!」
鳳凰院警部が女性に駆け寄る。女性はふらふらとして警部にしがみついた。
「こ、こ……」
「落ち着いて!」
そんな警部が一番落ち着いてない。
「マダム……」
千早がその傍らで跪く。
「いったい何を見たのですか?」
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