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落ち着きを払った冷たささえ感じる声に女性はやっと息を整えられたらしい。
「一等車で……」
「そうですか」
全てを言い終わらないうちに千早は立ち上がり食堂車を出た。千早さんと呼びかける警部の声を後ろに聞きながら……。
「……」
二等室を抜けて一等車へ急ぐ。揺れる汽車の中を走るのはなかなか困難だったが、千早はある確信のもとに先に進む。
それは千早で警部が乗っていた部屋の前だった。
見知らぬ女の子がぼんやりと立っている。桜色のはかま姿で頭に大きなリボンをした少女はただ茫然と部屋の前に立っている。
部屋の扉は少し相手、汽車が揺れるたびに左右に揺れていた。
「お嬢さん?」
声をかけても彼女は反応しない。
千早は少しだけ自分より背に高い少女のわきから部屋をのぞき見た。
赤いカーペットは変わらない。
しかしその上には頭部から血を流した女がうつぶせで横たわり、宝石箱がひっくり返されて、貴金属が散乱していた。
「やれやれ、殺人とはね……」
惨劇に千早は少し不謹慎に小さく微笑んだ。
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