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月下に降り立つ少女の黒髪は、風に靡いていた。蒼い瞳は静かに前を見据えて、左手にはナイフが握られている。
草原に倒れた屍を踏みにじって少女はナイフを鞘に納めた。ナイフを輝かせていた緑色の光もどこかへと消えて、蒼い月の光だけがコバルト大陸の草原を照らす。
風が吹き荒れて、少女の着ている衣服を弄ぶ。黒いワンピースが僅かに揺れた。
(幻影ここまで来ていると言うの?)
草原を強く蹴りつけた少女は走り出す。
向かってくる幻影にナイフを突き立てる。
ナイフは幻影を切り刻んで、少女の行く道を作る。
しかし幻影はすぐさま形成を立て直して少女を襲った。
少女の右腕は動かない。ナイフを握った左手だけで幻影と戦い続ける。
遠くで、ヘッドライトがちらついたのはその時だった。
少女は光へ突き進む。
「マリナ、全力で跳べ!」
止まった四駆車の運転席からランチャーを付きだした女が叫んだ。
「遅いよ! アクア」
マリナと呼ばれた少女は長い髪の毛を跳ねあげると四駆車の屋根へと向かって飛んだ。一瞬、左足に旋毛が巻き付く。マリナが脚力を魔力で操ったのだ。
ランチャーの引き金が引かれると砲射光が飛び出して幻影を駆逐する。
「アクア、貸して。車を出して!」
マリナはアクアからランチャーを受け取って、引き金を弾いた。
砲射光が弧を描いて闇に散る光景を後にして四駆車は草原の南へと走っていく。
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