25人が本棚に入れています
本棚に追加
「右腕一本で良かったわね」
「ほんとよ。全く。早くお風呂に入りたい」
「左足は魔力強化してるのに」
「全身を強化なんて出来るわけないでしょう?」
「ビーストの縄張りまで分かっているっていうのに、これじゃあ封印も討伐もまだまだ先ね」
アクアは呆れたように四駆車を走らせた。
「そんなことより、お風呂に早く入りたい」
マリナは駄々を捏ねる。先程までの無表情はアクアの前では消えるようだった。
四駆車は南へと走り続けてユウラン街へと入っていく。
ユウラン街は活気の良いところであった。夜も眠らない街である。そのため裏路地の治安が悪いことでも有名だった。表通りの華やかな装いも裏路地に入れば生臭い世界に変わる。汚水の臭いに屍の放置、とても女子供が進める道ではなかった。そんなユウラン街の外れに位置する倉庫街近くにリトニアと言う発明家が住んでいる。マリナとアクアが向かっているのはリトニアの研究所であった。
と言って、研究所だと言い張るのはリトニアだけであって、法律としては違法在住である。それでも警備が動かないのは治安の悪さに乗じて甘い汁を啜っているからともいえた。
リトニアの研究所だと言い張るの空き家の隣には車庫がある。アクアが四駆車を車庫に入れて戻ってきた。
空き家は二階建てではあるが二階の屋根は幾度の爆発で壊れ、継ぎ接ぎだらけの痛々しいものになっていた。
「リトニア。今帰ったよ」
マリナが、立て付けの悪い玄関の扉を開けて中にはいると蒼い髪の毛と瞳を持った青年がエプロン姿で顔を出した。青年がリトニア・アラムである。歳は二十代半ばと言うが童顔であった。背丈もマリナより少し高いくらいだ。黙っていれば美少年と言える
。
「お帰り。マリナちゃん、アクアちゃん。ハニーは役だった? すぐにイカレルのが難点だけど」
「ハニー?」
「やだな。ぶっぱなしたんでしょう。ランチャー」
「初めからそういいなさいよ。疲れてるんだから。お風呂、沸いてる?」
マリナはため息を混じらせる。
「沸いてるけれど、怪我の治療が先だよ、ほら。座って。すぐ直すから」
リトニアがマリナの腕を掴むとソファに座らせた。マリナも抵抗しない。
「優男の癖に力だけはあるんだから!」
「そう怒らないでよ。ほら、このままお風呂に入ったら染みるよ?」
マリナのワンピースの袖の切れ目から血液が染み出ている。リトニアは傷口に手を軽く添えた。
最初のコメントを投稿しよう!