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部屋に取り残されたアクアは足を組み直し、物思いに耽った。
(確かに。鎧兜とまではいかなくても衣服を強くすることは考えるべきね)
リトニアが食事の用意をして台所から出てくる。ソファの前にある机に料理が並ぶ。リトニアの手作りだ。
「今日は魚が手にはいったんだよ。バター焼きにしてみたけれどお口に合うかな?」
「頂くわ。ありがとう」
アクアは料理に手をつけた。
「美味しい」
「それはよかった。発明に気を取られていると食事が疎かになる。たまには作らないとね。気分転換だよ」
リトニアもまた向かい合うように座った。
風呂上がりのマリナがパジャマ姿で戻ってくる。普通の十八才だ。戦闘の時の姿はどこにもない。穏やかな蒼い眼差しがある。
「私もご飯食べよ」
マリナがアクアの隣に腰かけた。
三人が共同生活を初めて既に八年の月日が流れている。
リトニアが二人を研究所に匿ったのだ。八年前の真冬にビーストの信者に追われて逃げてきた二人の話を聞いて協力を申し出たのである。
リトニアにも話すことのできない事情はあった。マリナもアクアもその事は知らない。リトニアも話すつもりはないと言える。
三人の奇妙な生活はそうして続いている。
2
マリナとアクアが探している拳銃の所在は不明である。
手がかりは勇者が歩いてきた道のりを探すと言うことだった。
勇者は北国から仲間を集い、ビーストを追い詰めて拳銃で封印に成功した。
拳銃を作った職人は神の子孫だったと口伝が伝わる程度で情報が曖昧であった。
マリナは資料を読み返していた。最新式の情報網には集団がある。
ビーストを倒すために立ち上がった人間が情報を掲示してくれているのだ。
マリナがビーストの縄張りの情報を得たのも集団からだった。
縄張りの草原はクライシスといった。広い草原のその先には山脈がある。ビーストは草原から数万キロにわたって人間を狩る。その規模は徐々に広がって居ることも確かだった。
マリナは資料を机に置いた。時計は深夜の一時を回っている。明日の準備はできている。明日こそ拳銃のありかを見つけるぞと張り切ってはいるが前途多難であった。
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