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通常では取り締まれない事件は、全て聖霊寮へ回ってくる。その量は膨大。手付かずになり、机の上に放置されっぱなしのまま、引き継がれることも忘れ去られ、未解決の事件の数々。
いわゆる、治安省の墓場。
きちんと整列された机に、死んだような目をして、時間をダラダラとやり過ごしている職員たち。その一角で、異様な雰囲気を放っている男の口にくわえられた、ミニシガリロ ダビドフ プラチナムから上がっている青白い煙。苦味と辛味が口の中へ広がる、それをくわえ煙草のようにして、崩れやすい柔らかい灰がぽろっと床へ落ちた。
トレードマークのホンブルグハットをかぶった男が、帽子のつばを右手で上げ、目の前にある小さな缶を、穴があくほど見つめていた。やがて、あきれが思いっきり入ったため息をともなって、ケンカっ早そうな雑な声で、
「ドン引きだ……」
細身の葉巻を食えたまま言った。
帽子から手を離し、埃だらけの机の上に乗せられた小さな丸い缶を、太いシルバーリングがはめられた、人差し指と親指でつまみ、もう何回やったかわからない行動をもう一度した。180度回して、コーヒー豆の写真がデザインされた、缶に書かれた文字を凝視し、
「オレの目がおかしくなってんのか? どっからどう見ても、無糖だ……」
国立 彰彦、38歳。187cmの背丈で、ガッチリとした体格。霊感はまったく持っておらず、その手の話も半信半疑。よく言葉に、横文字をわざと入れる癖があり、変な風に言葉を短縮したり、プロレスの技をかけるのが趣味。
薄藤色の少し長めの、洗いざらしの短髪。ブルーグレーの意思が強く鋭い眼光。
葉巻の細く短いタイプ、ミニシガリロを嗜む。性格は粗野。男気があり、面倒見がいいところが、同性にしたわれ、この名前で、国立はよく呼ばれる。
「すまないっす、兄貴」
男らしい大きな体が、古い回転椅子をきしませている隣で、これまたケンカっ早そうな、20代前半ぐらいの男が、所在なさげに立っていた。椅子にしっかりと座っている状態で、国立は口の端だけでふっと笑って、
「てめぇ、回し蹴り、バックだ!」
「わかったす!」
若い男は両手を前で構えて、技を受ける体勢を整え、
「ジョークだ」
国立はシルバーリングだらけの指で、若い男の額にデコピンした。
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