第一章 寝覚め

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けたたましい玄関チャイムの音で俺は目覚めた。時計を見る。時刻は午前7時30分。今日は大学の講義もないからまだ寝ていられる時間なのに……と思いながら、粗暴な訪問者の元へと向かう。 ドアノブをひねると、見知った顔が飛び込んできた。 「なんだよ本多、こんな朝早くから……」 本多は何故か安堵の表情を浮かべた。 「カズ!!よかった、間に合って……」 「あ?どういう意味だ?」 「いいから乗れ。話はその後だ。」 そう言って、本多は俺を軽自動車の後部座席にねじ込んだ。 * * * 「カーテン閉めろよ、早く!」 「別に眩しくねぇぞ?」 「いいから!」 「なんなんだよ、いい加減どういうことになってるのか教えてくれよ。」 俺が困惑に満ちた顔をすると、本多はスマートフォンを後部座席に投げた。画面にはニュースの記事が表示されている。冒頭に画像が貼られていて、その下に文章が記されていた。 「昨晩未明、名古屋市瑞穂区の路上にて殺人事件が発生。凶器は出刃包丁。警察は通り魔殺人事件として、現場付近の防犯カメラに映っていた男を容疑者として捜査を行うという。……怖ぇ事件だな。だけど、この事件がどうかしたのか?」 本多は声を荒げた。 「防犯カメラの画像よく見ろ!」 言われたとおり目を凝らして画像を見直した。容疑者はフードを深く被っている。とりたてて気になる点はなさそうだが…………あれ……このミサンガ……。 自分の手首を見る。本多と旅行した時、本多に作ってもらったオリジナルのミサンガ。世界に一つしかないシロモノだ。そして、画像に写っているのも、そのミサンガである。 みるみる血の気が引いていく。そんな。まさか。
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