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 立ち上がったのは非能力者の中で生活をする、暴動に参加しなかった能力者達だった。  彼らは自分達が敵ではないことを示すため、ある真実を非能力者達に伝えた。  実はあなたたちにも力はあるのです、と。  ただそれは、世間で能力者と言われている人々とは違い体内に散在しているため、力が分散されて外へ具現化するまでにいたらないのです、と。 「ですが、私達の力と呼応すれば、あなたたちにも力が使えるはずです。あなたたちの友人である証として、私達があなたたちの武器となりましょう」  日本において、非能力者との交渉の先頭に立ったのは日置未空(ひおきみそら)という若い女性だった。  後年、彼女は能力者達から裏切りの象徴と罵られることになるのだが、当時は両者の隔たりをなくした偉大な人物だと神格化された。  幼かった僕には深い意味などわからなかったが、日置未空と総理大臣が握手を交わすテレビ中継を家族三人で観たことは覚えている。母はなぜか涙を流し、父は母を抱きしめた。ここからだ、と父が母に言い、母は微笑みながら僕を抱擁した。 「(ぜん)、未来が変わるのよ」  母の涙は透き通っていた。  目の前の出来事を疑わず、ただ純粋に光を見つめていた。  僕は汚れのないその心を信じた。  世界ではなく母を信じた。  母が言うのだから、きっと明るい未来が待っているのだ、と。  だけど、世界は母が思っているよりもずっと汚かった。
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