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リサは目を丸くして、クリストファーを見る。
「君はいいね」
穏やかな声が、続ける。
「立派な志も、癒術師としての高い誇りも責任感もある」
一体どういう風の吹き回しかと、リサは身構えた。
「僕のように窮屈に育った人間は、せめて逃避でもするのが精一杯さ」
彼は、動く右手で瞼を覆い、笑う。
「情けないのは僕だ」
リサは警戒を解いて、クリストファーの顔を見つめた。
「この間は酷いことを言って、すまなかったよ」
瞼を覆う右手が、そっと外される。
クリストファーは、間近で彼女の顔を見た。
「泣いているのかと思って」
優しい声と共に、その顔は離れる。
「クリスはクリスの生き方をすればいいんじゃないかな」
光を弱めた夕日の中で、尚識別できるほど、彼女の表情は柔らかだ。
「おうちのことは、私にはよくわからないけれど……。自分で歩く道なら、怖いことなんて何もないよ」
傷つくことは沢山あるけれど、とリサは加えた。
「君は本当に強いんだな」
彼は笑みを浮かべて、真上に繁る葉を見る。
「だから、僕は動かされてしまったんだろうね」
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