初夏の学園にて

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 日差しを遮る大木の下には、それをぐるりと囲む形でベンチが造られていた。  リサは木陰にすっぽりと納まってしまうこのベンチで、本を読むのが好きだった。  時折薄茶の髪を撫でる風は彼女に心地良く、また天然の照明は茂る木の葉によって上手く調整されている。  そばかすの顔を上げれば日光を浴びて煌めく噴水が、彼女の目に美しく映る。  それは、時に読書で疲労した脳と目を癒すに、充分な働きをした。  芝生の青々とした中庭では、あちらこちらから生徒の賑やかな声がするが、それは彼女の勉学を妨げるには足らない。  何故ならリサは、多数の人の声が耳に入る場所での読書や勉強というものに、慣れているからだ。  彼女は、孤児の育つ施設で過ごしながら受験勉強をした。  そして無事に入学試験に合格し、学園生活2年目の現在に至る。  つまり、彼女は施設に育った孤児なのだ。
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