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リサは中庭の真ん中、噴水の中心に高々と造られた時計へ目をやった。
時計の針が、じきに午後の授業が始まると彼女に知らせる。
膝の上に乗せていた本を閉じると、彼女は立ち上がった。
午後は薬学の授業だ。
教室へ向かおうと、数ある授業棟を繋ぐ、渡り廊下をくぐる形で中庭を後にしたリサの茶色い瞳に、見知った姿の女生徒が映った。
タシャだ。
彼女は、リサとペアを組む音操師育成学科の生徒だ。
黒に近い焦げた茶色の髪をみぞおちの辺りまで伸ばし、一つにまとめている。
活発げな黒い瞳が向けられる先は、リサの知らない男子生徒だ。
リサは彼女たちの邪魔をしないようにと、黙ってそのまま足を進めた。
しかし。
「あ、リサ」
彼女の姿を認めたタシャが、声をかけた。
同時に、男子生徒の目もまた、リサへと移動する。
リサは男女2人の時間へ侵入することに少々ばつの悪い思いをし、またそれに気づかないタシャの無頓着さに苦笑しながら、仕方なしに彼らへ歩み寄った。
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