初夏の学園にて

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「リサ、これから学科授業?」  共にいた男子生徒の存在を忘れたかのように、タシャがリサへ話しかける。  リサは彼へ困ったように笑いかけ、タシャへ肯定の頷きをして、薬学だと答えた。 「タシャ、こちらは?」  短髪の男子生徒の灰色の瞳がタシャへ向けられる。  タシャは、ああ、と今気づいたかのように声を上げ、 「彼女はリサ。あたしのペアよ。癒術科なの」 彼に紹介した。  そして、 「リサ、こちらクリス。クリストファー。学科は……」 と、リサへ彼を紹介しようとした。  しかし、彼女が言い終わらぬうちに、リサが遮るように言った。 「精霊師ね」  目を丸くした2人を見て、リサは悪戯を成功させた子供のように、奥二重の目を細めた。  国立クイ学園は、人材育成の目的で創設された、大規模な学舎である。  学科は無数に及び、その全てを把握する生徒はなかなか居るものではない。  聞いたこともない、という学科の生徒に出会うことも珍しくはなかった。  そのクイの中で、リサがクリストファーの在籍学科を言い当てたことは、2人を驚かせるに充分ふさわしい。
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